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最高裁判所第三小法廷 昭和41年(オ)756号 判決

上告人

有限会社仁和商事

右代表者

前田幸盛

被上告人

松藤伊十郎

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由について。

被上告人のした所論自白の撤回につき、右自白が真実に反しかつ錯誤に基づくものであることが認められるから、右撤回が有効であるとした所論原判示は正当である。所論は、自白の撤回はその自白したことにつき過失がないことを自白者が直接に証明できる場合に限り許される旨主張するが、右錯誤につき無過失であることまでは必要でないと解すべきであるから、論旨は採用できない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(下村三郎 柏原語六 田中二郎)

上告人の上告理由

第一点 判決に影響を及ぼすべき重要事項に関する理由不備の不法

一、控訴審第四回期日における控訴代理人の主張を引用するに

「原審において昭和三六年三月頃、桜井実から本件工事の完成引渡しを受けた事実を認めたのは、錯誤に基くものであるから取消す」なる旨。

よつて、右主張に対する被控訴会社代表者の答弁を引用するに

「右自白の取消には異議がある」なる旨。と、かような主張、ならびに答弁の要旨が録取されている。

二、そこで本来、一旦自白をなした主要事実につき、その撤回をなし得るには、特段の事情の存ずることを要す(従来の判例要旨)るも、かかる判例の精神は、つまり、自白者がこの事情(禁反言則に反しない場合、或いは自白が詐欺、脅迫、錯誤などにより行なわれた場合等)の主張をなし得るためには、その自白をなしたことについて、過失のないことを直接に証明できる場合に限るとなす趣旨に解せられる。

三、して見ると、本件につき上告人(原告、被控訴人)は、被上告人(被告、控訴人)の自白に係る該主要事実を援用しているが、これは固より無弁識者がなした自白なれば知らず、苟くも法律の専門家である訴訟代理人が、その真意にもとづき自白したものなるからに外ならない。

四、さすれば、被上告人申出に係る右自白の撤回には、右判例の精神たる″その自白をなしたことについて、過失のないことを直接に証明できる場合″こと、すなわち、特段事情の存ずることを被上告人が直接証明できる場合を除くの外、その申出に関する事柄につき、その認容判決をなすに由なきは、極めて自明理であつた。

五、されば畢竟、控訴審判決は、かかる重要事項の判断をなすに当り、その前提要件たる右特段の挙証責任を果さしめざるにも拘らず、漫然としてその自白撤回を有効視したものといわざるを得ず、これは民事訴訟法第三九五条第一項第六号の規定に照し、同審の判断手続に不法あるを免れないから、上告人においては、これが是正を求めたく存じ、斯くは不服理由の準備に及びし次第である。

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